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新潟地方裁判所 平成10年(行ウ)1号 判決 1999年6月10日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、各自、新潟県に対し、別紙請求目録被告氏名欄に対応する請求金額欄記載の各金員及びこれに対する平成一〇年三月二二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、平成九年八月二三日から大阪府で開催された第五二回国民体育大会協賛第四九回全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「本件野球大会」という)に参加した新潟県議会議員である被告らについてされた旅費の支出が違法無効であるとして、新潟県の住民である原告らが、新潟県に代位して、右旅費の支出を受けた被告らに対し、不当利得の返還を求めた住民訴訟(地方自治法二四二条の二第一項四号)である。

二  当事者間に争いのない事実又は項目末尾記載の証拠によって容易に認定できる事実

1  当事者

(一) 原告らは、いずれも新潟県の住民である。

(二) 被告らは、本件野球大会当時、いずれも新潟県議会議員であった者である。

2  全国都道府県議会議員軟式野球大会

全国都道府県議会議員軟式野球大会(以下「全国野球大会」という)は、国民体育大会に協賛し、あわせて議員相互間の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する目的のもとに、昭和二四年、国体開催地の都道府県が主催団体に加わった第四回国体に時期を合わせて、第一回大会が開催され、以来、毎年一回、国体の開催に先立ち、国体開催地の都道府県において開催されてきた、全国都道府県議会議員による各議会対抗形式による軟式野球大会である。

全国野球大会の主催者は、当初は、国体開催地の都道府県議会であったが、昭和五二年からは、全国都道府県議会の議長により構成される全国都道府県議会議長会がこれに加わり、昭和六〇年代からは四五以上の都道府県議会が参加するところとなった。

新潟県議会は、昭和二六年(第三回大会)から参加するようになり、その後、第四回大会、第五回大会、第一〇回から第一二回大会、第一四回から第一六回大会、第一八回大会に参加した後、昭和四四年(第二一回大会)からは本件大会を含め二九回連続して右大会に参加してきた。

(甲二三、乙一、二、八、一〇、弁論の全趣旨)

3  本件野球大会の開催

本件野球大会は、第五二回国民体育大会(なみはや国体・夏季大会平成九年九月一三日から同月一六日まで、秋季大会同年一〇月二五日から同月三〇日まで)の開催に先立ち、第五二回国民体育大会協賛第四九回全国都道府県議会議員軟式野球大会として、同年八月二三日から同月二五日にかけて、大阪府において、全都道府県議会チームが参加し、次のとおり開催された。

(一) 主催者

全国都道府県議会議長会、大阪府議会

(二) 開催地(開会式等の会場及び試合会場)

大阪府(大阪市此花区港北緑地二所在の舞洲アリーナ及び舞洲べースボールスタジアム外七か所の野球場)

(三) 参加団体(参加者)

新潟県議会を含め四七の都道府県議会(選手約一三三〇名、随行者らを含め合計約一九五〇名)

(四) 日程

(1) 平成九年八月二二日(大会前日)

午前一一時、大阪市内のホテルニューオータニ大阪において、五県主将会議及び表彰審査会が、午後一時からは、同ホテルにおいて、主将会議(組合せ抽選等)が実施された。

(2) 同月二三日(一日目)

午前九時、舞洲アリーナにおいて、大会開会式が実施された。各都道府県の選手団の入場は、大会開会通告のファンファーレの後、もず鳥をモチーフにした国体マスコット「モツピー」を先頭に、場内放送による各都道府県の紹介を受けながら、北海道から沖縄県、最後に開催地方公共団体大阪府の順序で、それぞれプラカードを先頭に右アリーナに入場する形式がとられた。その後、大会開会宣言、国旗等掲揚、優勝旗返還、大会会長あいさつ、永年出場チーム等の表彰、次期開催地神奈川県議会議長のあいさつ、選手宣誓等が行われた。

午前一一時から、舞洲ベースボールスタジアム外七か所の野球場において、第一回戦が実施された。

(3) 同月二四日(二日目)

午前九時三号から、前記各野球場に謹て、二回戦及び羨勝戦が実施された。

(4) 同月二五日(三日目)

午前九時から、舞洲ベースボールスタジアムにおいて、決勝戦が実施された。

その後、舞洲アリーナにおいて、大会閉会式が実施され、成績発表、優勝旗等の授与、大会会長のあいさつ、国旗等降納等が行われた。

(甲一、乙二、弁論の全趣旨)

4  被告らの本件野球大会への参加

被告らは、新潟県議会議長による旅行命令を受けて、次のとおり、本件野球大会に参加した。

(一) 平成九年八月二一日から同月二二日までの行程

被告A(被告番号18)は、新潟県チームの主将代理として、同月二二日に開催された主将会議に参加するため、他の議員らよりも一日早い二一日午前九時一〇分発の飛行機で新潟空港から伊丹空港に向かい、午前一一時頃、宿泊先である三井アーバンホテル大阪に到着した後、午後三時頃、新潟県大阪事務所を訪問した。

そして、二二日午後、大阪市内のホテルニューオータニ大阪で開催された主将会議に参加した後、宿泊先に戻り、午後四時四〇分頃、舞洲運動広場において、他の被告らと合流した。

被告B(同9)、同C(同13)、同D(同19)、同E(同20)及び同F(同24)は、同日、飛行機で新潟空港から関西空港へ向かい、右被告ら、被告A(同18)及び同G(同3)を除く被告らは、同日、飛行機で新潟空港から伊丹空港へ向かい、大阪に到着した。

被告らのうち二四名は、同日午後四時四〇分から午後五時二〇分まで、舞洲運動広場において、野球練習を行い、その後午後七時三〇分から、被告らのうち二八名は、自費により、懇親会を行った。

(二) 平成九年八月二三日から同月二四日までの行程

被告G(同3>を除く被告らは、二三日午前八時、舞洲アリーナに到着し、午前九時、本件野球大会開会式に参加し、昼食後、午後一時、大阪市住之江区南加賀屋一丁目一六二所在の大阪府営住之江公園野球場に移動した。さらに同日、他の議員らよりも一日遅れて新幹線で大阪に到着した被告Gが合流し、被告らは、午後三時四五分、右野球場において、一回戦第三試合の鳥取県議会チームとの対戦に臨んだ。午後五時一六分、試合は終了したが、九対一で敗戦し、そのため、被告F(同24)は、同日新幹線で新潟に帰県し、他の被告らは、午後七時、自費により懇親会を行った後、宿泊先のホテルに戻り、翌二四日、飛行機ないし新幹線で帰県した。

(甲二、三、乙二、五、六、被告H、弁論の全趣旨)

5  本件旅費の支出

新潟県議会運営委員会は、本件野球大会に先立つ平成九年二月、その予算につき、議会予算案を了承し、右予算案は定例会において議決された。

新潟県議会議長は、同年五月、本件野球大会の実行委員会会長である大阪府議会議長から、本件野球大会開催通知を受けたため、同年六月付けで同人宛に参加の回答を行い、その後、新潟県議会スポーツ議員連盟野球部会に派遣議員の人選を依頼したところ、その部員である被告らが参加の意思を表明した。

これを受けて、新潟県議会議長は、同年八月四日、被告らに対し、本件野球大会参加についての旅行命令を発した。同月一二日、知事の補助職員を併任された総務課課長補佐は、新潟県議会議長の発した本件旅行命令書を確認し、被告らについて、本件野球大会に参加するための旅費(鉄道賃、航空賃、日当及び宿泊料等)の概算払いとして、合計三二九万二六六三円の支出負担行為兼支出命令決議書を決裁し(以下「本件支出命令」という)、被告らは、同月二〇日右旅費を受領した。もっとも、前記のとおり、その後、新潟県チームが一回戦で敗退し旅行期間が短縮したこと等から、同年九月三日、旅費精算による七二万六二九四円の返納決議がされ、同年一〇月六日にも、さらに一万七五六〇円の返納決議がされ、一部が返納されたことから、結局、被告らが受領した本件旅費は、別紙請求目録請求金額欄記載の各金額のとおり合計二五四万八八〇九円となった。

(甲二、三、六、弁論の全趣旨)

6  監査請求

原告らは、平成九年一二月一九日、新潟県監査委員に対して、本件野球大会のための支出が違法であるとして、被告らに対する不当利得返還請求による損害の填補を求めて、住民監査請求を行ったが、新潟県監査委員は、平成一〇年二月一七日付けで、本件支出は違法又は不当な公金の支出には当たらないとして、本件監査請求を棄却した。

(甲五、六、七)

7  全国野球大会の中止

本件野球大会後、公費による参加への批判が高まるなかで、都道府県議会議長会の組織検討委員会は、平成一〇年一二月二二日、地方財政の悪化を理由として、平成一一年度以降の全国野球大会を中止する旨決定した。

(弁論の全趣旨)

第三  争点及び争点にかかる当事者の主張

新潟県議会による被告らを本件野球大会へ派遣するとの決定及びそれに基づく被告らへの旅費の支出は違法であって、被告らが旅費として支給を受けたものが不当利得となるか。

一  原告らの主張

被告らの本件野球大会への参加は、議員相互の単なる私的なレクリエーションヘの参加に過ぎず、公務ではないから、本件支出命令は違法無効であり、被告らの本件各旅費の受領は法律上の原因がない。

1  普通地方公共団体の議会が、その裁量により、議員を国内や海外に派遣することができるのは、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために合理的な必要がある場合に限定されると解すべきであるから、議会による議員の派遣決定が裁量権の範囲内とされるためには、<1>派遣先である各種大会の開催目的が議会の機能と合理的に関連していることのみならず、<2>参加議員の行動計画が派遣の目的を十分具体化して立案されていること、<3>派遣対象議員の実際の参加目的が議員の議会活動と合理的な関連性を有していることが必要であるし、さらに、右派遣決定を受けた議員の旅行が公務による旅行と認められるためには、右要件に加えて、<4>派遣議員の旅行の実態が議員の職務である議会活動、すなわち議会における議決とその前提としての審議に合理的に関連することが必要であると解すべきである。

2(一)  本件野球大会の性格

本件野球大会は、「国体協賛」をその目的に掲げているが、国体協賛と銘打てば右大会の開催が公的性格を帯びるというものではなく、その意味は国体の趣旨に賛同するということにすぎない。被告らは、国体実地の確認の有益性等を指摘するが、実地確認は国体運営に関わる行政職員の職務であり、議決機関である議会としては、国体の開催自体及び開催に関する予算等大枠を決定すれば足りるはずであり、議員が自ら実地確認をする必要は乏しい。国体協賛とはいわば飾り言葉に過ぎないのである。

また、本件野球大会の主催者は、国体開催地都道府県及び全国都道府県議会議長会であるが、そのことだけで大会の開催が公的性格を帯びるものではない。被告らは、本件野球大会が全国の都道府県議会の議員が一堂に会する唯一貴重な大会であると指摘するが、本件野球大会では、開会式以外に全国の都道府県議会の議員が一堂に会する機会は設けられておらず、また、野球試合以外に他の都道府県議会議員との接触の場はなく、交流や意見交換等の機会は特に設けられていない。したがって、本件野球大会が、地方公共団体のスポーツ振興施策などを検討する上での見識の涵養等議会活動に非常に有意義であるという被告らの主張は具体的な根拠がないものである。

結局、本件野球大会の実質的な目的は、議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図ることにある。右大会の開催要綱の目的には「地方自治の発展に寄与する「という言葉も掲げられているが、議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図ることが地方自治の発展に寄与するというのはこじつけに等しく、飾り言葉にすぎない。そして、議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図ることは、議員の個人的な交流、楽しみにとどまるものである。

よって、本件野球大会には公的性格がないか又は非常に薄いものである。

(二)  被告らの本件野球大会への参加

被告らの行動計画は、被告Aが主将会議に参加するほかは、大会会場に赴き、開会式及び野球の試合に参加し、被告らだけで懇親会を行い、帰路に着くというものである。これには、異なる都道府県議会の議員相互の交流、情報収集、意見交換等の場や大会施設などの視察の場が特に設定されているわけでもない。また、開会式及び試合参加のため野球場に行くこと以外に大会施設などの視察は行われておらず、地方公共団体のスポーツ振興施策を検討する上での見識の涵養につながる活動は全くなされていない。

以上の事実や被告らがいずれも新潟県議会スポーツ議員連盟野球部会の部員であり、本件野球大会に先だつて新潟県知事から二〇万円の協賛金を右連盟が受領していることなどからすると、被告らの本件野球大会への参加の目的は、野球を楽しみ、懇親会をすることなどを通じて、被告ら相互の親睦を図ることにあったというべきである。

(三)  以上のとおり、本件野球大会は、その開催自体に公的性格がないか又は非常に薄く、その開催目的は、議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図るという、議員の個人的な交流や楽しみにとどまっていること、被告らの行動計画には、意見交換や大会施設などは反映されておらず、参加目的は、野球をすることと本県の参加議員相互の懇親にあったというべきであるから、前記合理的関連性は認められず、新潟県議会による本件野球大会への被告らの派遣決定は違法であるし、被告らの本件野球大会への参加は「公務」にはあたらない。

二  被告らの主張

被告らの本件野球大会への参加は公務にあたり、本件支出命令に何ら違法はない。

1  地方議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し、合理的な必要性があるときはその裁量により議員を派遣することができるのであり、当該意思決定が裁量権の範囲内にあると判断されれば、司法審査が及ばないのは当然である。

2  そして、後述のとおり、本件野球大会には公務性が認められるのであるから、同大会に被告らを派遣しこれに参加させたことは、まさに議会活動の一環としての合理的必要性からであり、その決定は裁量権の範囲内にあり、右決定を受けた被告らの本件野球大会への参加が「公務」にあたることは明らかである。

(一) 本件野球大会の公務性

(1) 全国野球大会の目的・主催者

国体は、昭和二一年、戦後の荒廃した人心にスポーツを通じ希望と意欲を回復させようと財団法人日本体育協会が発案し、昭和二四年(第四回大会)から開催地の都道府県が、昭和二五年(第五回大会)から文部省が主催者に加わり、右三者の共催により開催されてきた国民的な大会であり、国体をどう成功させるかは、順次国体を開催していく都道府県の議会は勿論、各議員にとっても重要な関心事である。 全国野球大会は、「国体に協賛し、あわせて議員相互間の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与すること」を目的として、昭和二四年の第四回国体に時期を合わせて第一回が開催されて以来、連続して今日まで右目的のもとに開催されてきたもので、かつその成果を得て開催されている。このような経緯から、全国野球大会における国体協賛の実態は、参加議員の送迎、輸送体制の確認、開会式を始めとする一連の運営を国体を想定した手順に従い、入場行進等が試演されるなど、主要会場における競技を通しての実地の体験の場となっている。

また、全国野球大会は、従来は、国体開催地の都道府県議会のみが主催者であったが、昭和五二年からは全国都道府県議会議長会が主催者に加わり開催されてきたもので、このように議長会が実質的に全国野球大会に関与していることから、各都道府県議会相互の連携が密に取れ、全国の都道府県議会の議員が一堂に会する唯一貴重な大会であり、参加議員の交流や意見交換等を通じての情報収集のほか、大会施設などの視察も併せて行うことができ、地方公共団体のスポーツ振興施策などを検討する上での見識の涵養など、議会活動に非常に有意義なものである。

(2) 本件野球大会の開催

本件野球大会は、第五二回国体(なみはや国体)に協賛し、これを盛り上げるべく、全国都道府県議会議長会と国体開催地の大阪府議会との共催により、都道府県議会議長四一名、副議長三二名、選手一三三一名を含む総勢一九五一名もの参加を得て開催された大規模な大会である。

そして、大会開会式は、国体会場の舞洲アリーナで実施され、国体の開会式同様の順序で、都道府県別にプラカードを先頭に入場するもので、国体のリハーサルを兼ねたと評価しうるものであった。

本件野球大会の会場は八か所に分散されたが、試合規則、試合形式からして、国体並みの各都道府県議会の名誉をかけた真剣な試合であったし、野球は最も国民に人気のあるスポーツの一つで、試合参加人数も多く、体力的にもそう無理のないスポーツであり、地方議員が国体協賛のため実施するスポーツとしては適切である。

(3) 以上の諸事情に鑑みると、全国都道府県議員の相当数が各議会を代表し、前記主催者及び目的のもとに参集し、都道府県対抗形式で実施された本件野球大会を単なる遊びやレクリエーションの域と解すことはできない。

右大会は永きにわたり継続されており、すでに国体協賛として歴史的に定着した大会であり、それ自体立派に国体を盛り上げ、国体協賛に値するものである。そして更にスポーツ精神の向上等に寄与し地方自治の発展に役立つものであるから右大会に公務性が認められることは当然である。

(二) 新潟県議会が本件野球大会に被告らを派遣したことが裁量権の範囲内にあることについて

前記のとおり、本件野球大会には公務性が認められるところ、広範な権限と裁量を有する新潟県議会が、本件野球大会の公務性を認めた上で、同大会に被告らを派遣し、これに参加させたことはまさに議会活動の一環としての合理的必要性からであり、その決定は裁量権の範囲内にある。

(三) 被告らの本件野球大会への参加の公務性について

被告らは、新潟県議会の前記決定を受け、本件野球大会に参加し、各々その趣旨及び目的に沿って実際に野球に参加したものである。

よって、被告らの本件野球大会への参加が議会活動の一環としての公務であることは明らかである。なお、当然のことながら、参加議員は参加することにより各種スポーツ施設(いずれも国体会場である舞洲アリーナや住之江公園野球場等)を体感しえ、また、他議員との交流も深まること等により、地方自治の発展にも寄与することになり、これらも考慮すれば、被告らの本件野球大会への参加の公務性はより明白である。

第四  当裁判所の判断

一  地方自治法二〇三条三項は、普通地方公共団体の議会の議員は職務を行うために要する費用の弁償を受けることができる旨規定し、これを受けて新潟県議会議員給与条例七条一項、三項は、議員が「公務」のために旅行をした場合には、鉄道賃(必要に応じ、航空賃)、日当及び宿泊料等の費用を弁償する旨規定しており(甲四)、本件野球大会への被告らの参加旅費はこれに基づいて支出された。

ところで、普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し、合理的な必要性がある場合には、その裁量により議員を国内又は海外に派遣することができると解されるところ、議会の活動範囲を規律する法令は存在せず、住民の直接選挙によって選出された議員が構成する議会の自律権は最大限尊重されるべきであるから、その決定は議会の広範な裁量に属するというほかなく、右決定に裁量権の逸脱又は濫用が認められる場合にのみ、右決定が違法と評価されると解すべきである。

二  そこで、本件についてこれをみるに、前記第二・二で認定したように、全国野球大会は、「国体に協賛し、あわせて議員相互間の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する」ことを目的とした、全国都道府県議会議員による、各議会対抗形式による軟式野球大会であり、その発足の経緯が、昭和二四年、国体開催地の都道府県が国体主催団体に加わったことを契機に、国体を盛り上げる目的で開催されたものであったこと、そのため、開催時期及び場所は国体に合わせて決定され、毎年一回、四九年間にわたり開催されてきたこと、年々、参加都道府県の数が増加し、昭和五二年からは全国都道府県議会議長会も主催者に加わり、大半の、最終的には全部の都道府県議会が参加してきたこと、新潟県議会は、昭和二六年から右大会に参加するようになり、昭和四四年からは二九回連続して右大会に参加してきたことが認められることからすると、全国野球体会への参加が公的な側面を有することは明らかであり、単なる私的なレクリエーシヨンヘの参加と考えることはできない。そして、本件野球大会についてみても、第五二回なみはや国体の開催に先立ち、右開催地である大阪府において、全ての都道府県議会の参加を得て開催されていること、右野球の試合は、大阪府内の野球場において実施され、また、大会開会式は、大阪府内の舞洲アリーナにおいて、全国都道府県議会チームの入場や各種あいさつ、優勝旗返還等が国体開会式にならう形で実施されていること、被告らは、本件野球大会に参加し、右野球場において練習及び試合に参加するとともに、開会式にも出席していることが認められ、これらの事実によれば、被告らは、本件野球大会への参加を通じて、各人の政治的立場の違いを超えて被告ら相互あるいは他議会の議員らと交流する貴重な機会を得ており、このような交流は、各地方公共団体の連携、協力にとって相応の意味があり、また、被告らが、本件野球大会に参加することによって、大阪府におけるスポーツ大会の進行方法やスポーツ施設等を自ら選手として体験することも、単なる視察旅行に比して、はるかに、議員としての将来の国体の実施(新潟県においては平成二一年ころに開催が予定されている)やスポーツ振興施策を検討する上での見識の養成につながると判断することに著しい不合理はないというべきである。

したがって、被告らを本件野球大会に派遣することには、新潟県議会の議決機関としての機能を適切に果たすために合理的な必要性があるとした右議会の決定に、その裁量権の逸脱又は濫用は認められない。

原告らは、被告らが新潟県議会スポーツ議員連盟野球部会の部員であることや、本件野球大会に先立って新潟県知事から二〇万円の協賛金を右連盟が受領していることを公務性を否定し、ひいては裁量権の逸脱又は濫用の根拠として挙げているが、部員であることが右必要性の欠如に直ちに結びつくとは認め難いし、右の協賛金も自費で行われた懇親会の費用に充てられたにすぎないから(証人H)、これも右必要性の欠如に結びつくものではない。

第五  以上のとおりであって、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田清 裁判官 大野和明 裁判官 島村路代)

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